公立小中にもタブレット「1人1台」 勉強の苦手な子が変わった!〈AERA〉

※AERA 2016年8月22日号より

 

首都圏などでは小中学受験が盛んだが、日本の小中学生の9割超は公立校で学んでいる。21世紀型教育も、公立にどう広げていくかが課題だ。注目の分野で一歩先を行く学校を取材した。

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 タブレットや電子黒板などを活用するICT(情報通信技術)教育。旗を振る政府は「2020年代に1人1台の情報端末」を目標に掲げるが、すでに4年前からそれが現実になっている公立校がある。三重県松阪市立三雲中学校だ。

「今、うちの学校ではiPadは必需品です。忘れると、保護者が届けに来るほど。すべての情報がここに入っています」

 そう言って川口朋史校長が見せてくれたのは、同校の生徒や教職員が使う情報共有アプリ。時間割のほかに、各教科のオリジナル教材や、保護者向けの学級通信、職員用の掲示板などのアイコンがずらりと並んでいる。

●班の結論は電子黒板に

 同校の生徒と教師が1人1台iPadを持つようになったのは2012年。総務省・文部科学省が当時進めていたICT教育推進の実証研究校になったのがきっかけだ。それは教師にとって青天の霹靂だったという。ICTには全員が素人。決まった瞬間の職員室では、

「え? なんでうちが?」

 とため息が漏れた。そこで当時の校長は宣言した。

「私たちのような普通の中学の普通の先生が活用できるようにならなければ、全国に普及するはずがありません。できるところまでやりましょう」

 ゼロからの出発で何が、どう変わったのか──。

「今日はいきなりドリルから始めます。iPadを立ち上げて。制限時間は6分ね」

 2年生の国語では開始早々、豊田多希子研究主任が、前回習った敬語の使い方をドリルで確認するよう指示している。慣れた手つきで生徒は画面に表示される問題を解いていく。すぐに○×が出て、ゲームのようだ。その間、先生は次に使うプリントを配布し、ドリルに手こずっている生徒をフォローする。

 

「はい、じゃあiPadはいったん裏返しにして、プリントを見てください」

 今度は4人の班で頭を突き合わせての協働学習が始まった。それぞれの考えを出し合って、話すこと数分。再びiPadを出して、グループごとに自分たちの答えを送信。すぐに全グループの解答が電子黒板に一括表示された。先生の話や板書を受け身で「聞く」「見る」のではなく、生徒自身が「書く」「話す」機会が多いせいか、ぼんやりしている子はいない。

●これぞ新しい学びだ

 隣のクラスでは数学の授業が行われていた。担当の湊川祐也教諭は、生徒が使うiPad教材を、マックで自作しているという。教科書との最大の違いは、生徒が「体感」できることだ。例えば、空間図形は画面上で生徒が動かせるようになっており、上からや横からなど視点を変えられる。1次関数のy=ax+bのグラフであれば、aの値を指で動かすことで、グラフの傾きが変わることを体感できる。

「タブレットでは、黒板では表現できないことを表現できる。いきなり抽象から入るより、具体的なイメージから入ったほうが理解しやすい」(湊川教諭)

 三雲中では全学年、全授業でiPadを使うことにし、先生同士がうまくいったこと、いかなかったこと、新たに発見したことをすべてシェアしている。ICT活用をリーダーとして進めてきた楠本誠教務主任によると、特に導入当初は、機器を使うことばかりに目が向いてしまった。楠本教務主任自身、理科の実験では変化の瞬間が鮮明に記憶されるからと、生徒に動画を撮らせていた。しかしある時、実験の授業が、動画撮影大会になっていることに気づいた。

 本当に大事なのは、機器を使うことではなく、子どもたちにどんな力をつけさせるかだ──。教師たちの自問が始まった。

「目指す力をつけさせるのに一番有効なのが紙なら紙、ICTならICTを選べばいい。そうやって教師一人一人が自分の授業を一から見直し、再構築した。その結果、教え方が変わり、学び方が変わっていきました」

 

楠本教務主任は、勉強が苦手なある生徒のつぶやきを聞いて、それを実感したという。水素に火をつけて小爆発を起こす実験の振り返りで、その子がこんな表現をした。

「火を近づけると試験管の中に炎が吸い込まれていく。そして一気に広がった。先生、これを爆発っていうんだね」

 通りいっぺんの「水素は火をつけると爆発する」ではなく、その子は本当に理解したからこそ、心の内側から湧いた自分の言葉で表現した。

「教師生活で初めての経験でした。これこそが新しい学びだと」(楠本教務主任)

 1人1台が実現して5年目。三雲中の教師は、生徒の学ぶ意欲と、知識の活用力が上がってきたと感じている。川口校長は、「子どもも教師も毎年変わるので、すべてがICTの成果とは言い切れませんが」と断りつつも、全国学力調査の知識活用度を測る「B問題」の得点が向上したと明かす。

●教えるより学ぶツール

 今、小学生以下の子を持つ親の関心事は、2020年にも必修化されるプログラミングだろう。東京都小金井市立前原小学校は、すでにiPadを使ったプログラミングの授業を始めている。松田孝校長は、小学校におけるICT教育、プログラミング教育の先駆者。今年3月まで勤めていた多摩市立愛和小学校では、企業などの協力を得ながら、1人1台のiPadを整備。プログラミングの授業も、自ら内容を考え教壇に立った。前原小は、iPadの数もネットの接続環境も万全ではないが、そんななかでも工夫を重ねて授業をするのは、同校の教員や他の学校のプログラミング教育の参考にしてほしいからだ。

 その6年生のプログラミングの授業をのぞいた。すでに前の4時間で、「スクラッチ」など基礎的なプログラミング言語を学んだ子どもたちは、早く次をやりたくてうずうずしている。

 この日、挑戦するプログラミング言語は「ビスケット」だ。iPad上で「元気な人」と「病気の人」と「病院」の絵を描き、「元気な人」が「病気の人」に出会うと、感染して「病気の人」に変わり、「病院」へ行く……と、自分の作ったストーリーどおりに画面上の絵を動かしていく。松田校長は、最初に大まかな説明をしただけだったが、子どもたちはすぐマスターした。

 



「大人の側はつい言葉で教えようとしますが、タブレットは教えるツールではなく、学ぶツール。ゲームのように面白ければ、子どもは勝手に学んでいくんです。5分しか集中力がもたない子が90分、熱中する。不思議なことに、子どもたちは熱中すると、友達とコミュニケーションを始めるんですよ。教えあったり、協力したり。これぞアクティブラーニングでしょう?」

 

この日、子どもたちが書いた感想からは、確かに彼らのワクワク感が伝わってくる。

「自分の携帯にもプログラミングのアプリを入れて、もっとやりたい」

「毎回違うことを知ることができた。うまく設定できないこともあったけど、2、3学期にはちゃんとできるようになりたい」

 前原小では英語の授業でもタブレットを使っている。動画を見てネイティブの発音を学ぶ。今度は自分の発音を録音すると、その良しあしをABCで評価してくれるので、子どもたちは大張り切りだ。小学3年生からの英語必修化を前に、教員不足が指摘されているが、いいアプリを使えば、英語の苦手な教師が無理して教えるより、よっぽど有効ではないかと思えてくる。

 三雲中の川口校長も、前原小の松田校長も、「タブレットが1人1台あるのとないのとでは大違い」と口を揃える。しかし、昨年3月時点で、公立小中高などの整備率は、パソコンと合わせても全国平均でまだ6.4人に1台。無線LANも23.5%にとどまっている。国は、14~17年度の4年間で、総額6712億円の予算を学校のICT化に投じるが、地域差は大きい。その要因の一つは、ICT化予算が地方自治体に配分される際、「地方交付税」になってしまうこと。つまり、それを本当にICT化に使うかどうかは自治体の裁量なのだ。

●教材をサイトで共有

 そんななかで、ICT化に積極的に取り組んでいる自治体の一つが滋賀県草津市だ。学校情報化予算を5年間で約3倍に増額。昨年時点で、タブレットの配備数を2.3人に1台にまで増やした。また従来、教師や学校が個別に作成していたデジタル教材や学習指導案を、市内すべての公立小中学校の教職員800人が共有できるポータルサイトを開設した。

「どこかの先生がいい教材を使っていると聞けば、直接学校に行って、見せてくださいとお願いしていた。ネットで共有できれば、先生たちにとって便利なはず」(草津市教育委員会)

 教委によると、今年4月の本格稼働から4カ月ですでに1200ものコンテンツが集まった。ダウンロード後は、それぞれの先生が自由に加工し、自分の授業に使える。ICT化を地域全体、あるいは国全体で進めていくには、予算の充実はもちろん、こうしたノウハウの共有は欠かせない。

 教師を対象に、タブレットを使ったプログラミング授業の研修を前出の前原小の松田校長と実施し、自治体のICT化のコンサルティングを手がけるフューチャーインスティテュートの為田裕行さんはこう話す。

「ICTの活用は万能ではない。でも教師力を70点から80点に、80点から90点に引き上げる強力な武器になります。ICT教育は、ステークホルダーの少ない私立のほうがやりやすい面もありますが、公立校で授業や学びの質を上げた事例をいかに広げていくかが、全体のレベルを上げるカギとなるでしょう」

(編集部・石臥薫子)

 

以下、塾長より

 

授業において

受動的ではなく能動的にかかわることが

求められていく。

 

そんなお話でした。

 

印象的だったのは

 

教育現場において

手段はICTであれ

ペーパーであれ

 

その子を伸ばす方法を

選択していくということ。

 

わが塾も以前はICTだけに頼っていましたが

それだけでは不十分な生徒がたしかにいます。

 

個別対応で、その子に合った勉強法を提案することは

やりがいがありますし、結果がついてくると

うれしいですね。